ニューメキシコ州サンフィデル。はっきり言って、いわゆる「廃墟」の類に入る街、いや集落と呼んだ方が良いだろうか。州内最大の街、アルバカーキより約60マイル(約100キロ弱)、キャノンシート、ラグナ、アコマという米国先住民の居住区を走り抜けるとその集落はあらわれる。統計では人口約100人程度と記されているが、いつも殆ど人に会ったことはない。記録では入植は1910年に遡り、当時は Ballejos という名前で呼ばれ同年12月24日に郵便局が設置されたらしい。(San Fidel という名前は1919年から)


一口に廃墟とは言っても中には建物そのものが立派に残っているものもある。当時は Cafe、Gas Station、Garage、そして Curio Shop と呼ばれたお店も繁栄し、実際その Curio Shop は2010年までアートギャラリーとして細々ながら営業をしていた。今回そんな サンフィデルの荒れ具合を「確認」すべくアルバカーキから西進、(MLBのキャンプを観るという理由もあったが)アリゾナ州へのドライブを敢行した。


サンフィデルのメインストリート

街に入ってすぐに目に止まるのは進行方向右側の Jack Rittenhouse、1946年あたりまでは随分と賑やかなトレーディングポストだったとか。荒れ具合が素敵過ぎる。何度も言うが私は廃墟フェチではない。が、中々の「作品」に自ずと車から降りて探検モードに入る。晴れている日中は何てことないのだが、冬場や夕方の暗くなって冷たい風が吹く時間帯等はこの手の建物は100%ホラー映画だ。ホラー映画も好きな手前絶対起こりっこないシーンまで想像してしまう。。。

そしてその先、Cafe、Garage と探検を続けた後、通りを渡ったギャラリー跡に人の気配がしたので目を凝らす。
あ、やっぱり人だ。しかも何か作業している。何度か走った経験の中でサンフィデルで会う最初の人だ(笑)

彼の名前は Pablo von Lichtenberg、アメリカはセントルイス出身のアーチストだとのこと。最近25年間ドイツはベルリンに居を構え、パリ、ニューヨーク、そして地元のセントルイスでも展示会を開く正真正銘の芸術家さんだ。約30年近く外国で暮らす私自身の経歴とオーバーラップし、つい話は弾んだ。
現在パブロが手掛けているのが Acoma Curio Shop を一大アートギャラリーとして復活させることだ。メインとなる建物をしっかり改装、中はモダンな感じで陽の光をふんだんに取り入れるギャラリーを中心に、アーティスティックな壁画プロジェクトを計画。隣接した公園には既にその骨格となるガゼボやオブジェが少しずつ置かれている。
驚くことにパブロの手掛けてるギャラリーの正面の建物、そして前述の Rittenhouse や Garage等、彼のアイルランドやオランダの友人達が続々購入したそうで、カフェやブックストア等、今後サンフィデルの街を REBORN させる計画があるのだそうだ。


勝手に廃墟と決めつけていた街が、ドイツ仕込みの米国人、オランダ人、そしてアイルランド人の手によって生まれ変わろうとしている。何とエキサイティングな話だろうか。作業の手を止めさせるのは申し訳ないが面白くて仕方ないのだ。
途中、奇しくも同じカリフォルニア州オークランド在住の、テキサス女性も通りがかって車を停めて会話に加わってきた。彼女もアーチストだと言う。今さっき会ったばかり、名前すらまともに知らない3人が廃墟?サンフィデルの街の路上で時間を忘れて語り合う。これだから人生は楽しい。ルート66には予想もしない面白い出会いや話題が転がっているのだ。

        作業中のギャラリー前でポーズと取るパブロ

パブロはベルリンから戻り、たった4日間でセントルイスの自宅を売却、そしてこの場所を購入したそうだ。彼曰く「人生で最も忙しい4日間」だったそうだが、想像には難しくない。自分の思う通りに進んだ、らしい。何と羨ましいことか。
サンフィデルの街は撮影に10分~15分程度を見込んでいたのだが、気が付いたら
1時間半は悠に経っていた。これから変わるであろうサンフィデルの街を想像しながら再開の約束をして西へ向かった。
生きてるとやっぱり良いことあるよね。

最後にパブロの手掛ける壁画プロジェクト、”Route 66 Art & Mural Wall Project” は現在クラウドファンディングで資金を募集中だ。
https://www.gofundme.com/artwall66